当時のおはぎゃー指数
おはぎゃー度 100% 大おはぎゃー
|令和のブラックマンデー 2024年8月5日
2024年8月5日、月曜日の朝。あなたがいつものようにスマホで株価アプリを開いたその瞬間、画面はまっ青に染まっていました。日経平均は前の営業日から4,451円安(−12.4%)。1日で相場から12%が消えたのです。1987年のブラックマンデーをも下げ幅で上回った、まさに「令和のブラックマンデー」。あの朝、市場で何が起きていたのか。順を追って、いっしょに現場へ戻ってみましょう。
第1章 前夜 ── 誰も「まさか」とは思っていなかった
ほんの数日前まで、相場はむしろお祭りムードでした。2024年7月11日、日経平均は史上初めて4万2,000円台に乗せ、バブル期を超えた高値圏で誰もが強気だったのです。追い風は「歴史的な円安」。7月上旬には1ドル=161円台まで円が売られ、輸出企業の採算はホクホク。株を持っているだけで含み益が積み上がる、そんな時期でした。
ところが、地面の下ではプレートがゆっくりずれ始めていました。7月31日、日本銀行が追加利上げを決定します。「円をタダ同然で借りて、高利回りの海外資産に投資する」——世界中の投資家がやっていた円キャリー取引(低金利の円を借りて他資産に投じる取引)の前提が、静かに崩れ始めたのです。そして日付が変わって8月2日(金)、アメリカから追い打ちの一撃が飛んできました。
第2章 その朝 ── 8月5日、時計の針を刻む
まず前夜の伏線から。8月2日(金)に発表された米雇用統計が、市場予想を大きく下回る弱さでした。失業率は4.3%へ上昇し、景気後退のサインとされる「サーム・ルール(直近3か月の平均失業率が過去1年の最低から0.5%以上上がると景気後退の確率が高まるという経験則)」に抵触。ニューヨーク市場でS&P500もハイテク株も急落し、ドル円は円高方向へ大きく振れました。日本が週末で眠っている間に、導火線には火がついていたのです。
そして週明け、8月5日(月)——
- 寄り付き前:外国為替市場で円は買い戻しが止まらず、1ドル=144〜145円台へ。先週161円だったことを思えば、1か月足らずで20円近い円高です。輸出企業の採算前提が根こそぎ崩れます。
- 9:00 寄り付き:日経平均は最初から全面安。売りが売りを呼び、値がどんどん下へ吸い込まれていきます。
- 9:16 ごろ:大阪取引所で日経平均先物にサーキットブレーカー(急変時に取引を一時停止して頭を冷やす仕組み)が発動。約8年ぶりの発動でした。
- 午後:それでも売りは止まらず、13時台に先物は前週末比−8%のラインに触れ、この日2回目のサーキットブレーカーが発動します。
- 大引け(15:00):日経平均は31,458円42銭で終了。下げ幅−4,451円28銭は、下落率でこそ史上2位ですが、下げ幅としては史上最大。東証プライムでは800を超える銘柄がストップ安まで売り込まれました。
数字だけを並べても、あの日の空気はなかなか伝わりません。値動きそのものを一枚の図にすると、崩落の深さがよく見えます。
ちなみにこの日、当サイトのおはぎゃー指数を計算すると、5指標のスコアは上限のおはぎゃー度100%に振り切れます(詳しくは第3章で)。ダルマは当然、いちばん青ざめた黒青ダルマ「大おはぎゃー」。これ以上ないパニックだったということです。
第3章 何が起きていたのか ── 「日本株だけ」が12%落ちた理由
不思議に思いませんか。弱かったのはアメリカの雇用統計なのに、この日いちばん派手に崩れたのは日本株でした。同じ日、米ダウの下落率が約5%、英FTSE100が約3%だったのに対し、日経平均はこの日1日だけで約12%安、7月末の高値からは数日で18%安と、下げの深さが際立ちました。なぜ震源から遠い日本が、いちばん揺れたのか。
カギは、前夜に登場した円キャリー取引の巻き戻しでした。流れはこうです。
① 日銀の利上げで「円を安く借りる」旨みが薄れ、② 米景気への不安で「高利回りの米資産」の魅力も陰る。すると③ 世界中の投資家がいっせいに借りていた円を買い戻し始めます。④ その結果、円が猛烈な勢いで急騰(=ドル円が急落)。円高は輸出企業の採算を直撃するうえ、⑤ 円建てで持っていた株のポジションも損切りを迫られ、日本株に売りが集中しました。震源はアメリカでも、「円」というパイプを通じて衝撃が日本株に一点集中した——これが「日本だけ12%」のからくりです。
この日、恐怖指数と呼ばれるVIXは日中に一時65台まで跳ね上がりました。これは新型コロナショック(2020年3月)以来の水準で、市場が本気で震えていた証拠です。終値ベースでも38.6と、平常時の16前後から大きくかけ離れていました。
第4章 それから ── 「一夜」で戻った、史上最速級の反発
ここまで読むと、しばらく暗黒時代が続いたように思えるかもしれません。ところが——事件の「その後」は、暴落そのものと同じくらい劇的でした。
翌8月6日(火)、日経平均は寄りから買い戻しが殺到し、終値34,675円46銭・+3,217円04銭(+10.2%)で引けます。この上げ幅は、当時の史上最大。前日の史上最大の下げを、たった1日で大きく取り返したのです。売られすぎの反動、円高の一服、そして「さすがに行き過ぎ」という冷静さが、相場を一気に引き戻しました。
その後も乱高下は続いたものの、市場は数週間から数か月かけて落ち着きを取り戻し、円キャリーの巻き戻しも一巡。パニックは「点」であって「線」ではなかった、というのが後から振り返った結論でした。七転び八起き。相場は、こうしてまた起き上がっていきます。
第5章 この事件から学べること
令和のブラックマンデーが残した教訓を、3つに絞ってお土産に持ち帰ってください。
- 「高値・全員強気」のときこそ足元を見る。 史上最高値の直後に、この暴落は起きました。みんなが強気で伏線に気づかないときほど、地面の下ではプレートがずれています。
- 株価は、株以外の理由でも落ちる。 このおはぎゃーの主犯は、決算でも業績でもなく為替と金利でした。円高・金利・海外市場——「株の外側」を見ておくと、次の朝あわてずに済みます。
- パニックの底で売らない。 最悪の日の翌日が、史上最大の反発でした。もし8月5日の引けで恐怖に負けて投げていたら、翌日の+10.2%を丸ごと逃していたことになります。「もし今、同じことが起きたら」——退場さえしなければ、相場は起き上がるまで待てます。
株運長久ダルマより
「12%も落ちた朝は、そりゃワシも青ざめたわい。じゃがのう——次の朝には、過去最大の笑顔で起き上がったのもワシじゃ。七転び八起き。おはぎゃーの朝は、いつか必ず明ける。願掛けの片目、まだ入れずにとっておこうかの。」
▼ ほかの「おはぎゃー事件簿」も準備中です。過去の暴落を1件ずつ、こうして現場検証していきます。次回もお楽しみに。
▼ 為替発の世界同時株安の記録もどうぞ。チャイナショック(File.9)では、人民元切り下げと円高が日本株を直撃した2015年の夏を解説しています。