【おはぎゃー事件簿 File.4】ライブドアショック — 時代の寵児が消えた10日間


当時のおはぎゃー指数

大おはぎゃー
|ライブドアショック(個別株編) 2006年1月17日

2006年1月16日、月曜日の夕方。テレビの速報テロップが、六本木ヒルズに立つ一棟のビルを映し出しました。「東京地検特捜部が、ライブドア本社と堀江貴文社長の自宅を強制捜査」——。当時、時代の寵児ともてはやされ、誰もが名前を知っていたIT企業。その会社の株を持っていた何十万という個人投資家が、この夜、テレビの前で凍りつきました。ここから、株価が10日で84%消え、ついには日本の株式市場そのものが止まるという、個別株事件簿でも別格の10日間が始まります。あなたがもしこの株を持っていたら、と想像しながら読んでみてください。

第1章 前夜 ── 誰もが名前を知っていた「時代の寵児」

ライブドア(証券コード4753)は、当時の日本で最も勢いのある会社のひとつでした。社長の堀江貴文氏——通称「ホリエモン」——は、テレビにもたびたび登場し、既存の常識に挑む若き経営者として、良くも悪くも国民的な知名度を持っていました。

その名を全国に轟かせたのが、一連の買収騒動です。2004年にはプロ野球・近鉄バファローズの買収に名乗りを上げ(最終的には楽天に敗れます)、2005年にはニッポン放送の買収を仕掛けてフジテレビと真っ向からぶつかりました。「M&Aで会社を大きくする新しい経営者」として、ライブドアは連日メディアを賑わせていたのです。個人投資家にとっても、ライブドア株は「応援したい会社の株」であり、絶大な人気を集めていたとされます。

株価を押し上げたもう一つの仕掛けが、大幅な株式分割戦略でした。当時の制度では、株式を分割してから新しい株券が実際に投資家の手に渡るまで約50日ほどのタイムラグがあり、その間は市場に出回る株が一時的に品薄になります。品薄になれば株価は上がりやすい——ライブドアはこの制度の隙を突くように分割を繰り返し、株価を押し上げていきました(この手法は問題視され、のちに東証が自粛を要請しています)。こうして時価総額は、ピーク時に8,000億円超(諸説あり、8,000〜9,000億円のレンジで語られます)にまで膨らみました。誰もが知り、多くが持ち、そして誰も——このお祭りがこんな終わり方をするとは、想像していませんでした。

第2章 その朝 ── 連日ストップ安、そして市場が壊れた日

運命が動き出したのは2006年1月16日(月)の夕方。東京地検特捜部が、証券取引法違反(偽計・風説の流布)の疑いで、ライブドア本社と堀江氏の自宅などを強制捜査しました。この一報が市場に伝わると、翌日から売りが殺到します。以下は個人サイトなどの記録に基づく概算の日次推移で、正確な終値ではありませんが、転落の速さは十分に伝わってきます。

  • 1/16(月):強制捜査のニュース。この時点の株価は696円とされます。まだ、多くの株主が「明日には落ち着くだろう」と思っていました。
  • 1/17(火):日経平均が一日で460円超も下落するなど、ライブドア以外の銘柄まで巻き込む形で相場全体が動揺。ライブドア株は売り気配のなか、記録によれば596円まで下げたとされます。新興市場の代表格・マザーズ指数はこの日−11.7%とされるほどの急落でした。
  • 1/18(水):この日、事件は個別株の枠を超えました。後述の「東証・全銘柄取引停止」が起きた日です。ライブドア株は売り気配のまま値がつかず、この日の終値そのものが記録されていません。
  • 1/19(木):記録によれば416円。売りが売りを呼び、値幅の下限へ張り付くような動きが続きました。
  • 1/20(金)336円とされます。週をまたいでも、投げ売りは止まりません。
  • 1/23(月):この日、堀江氏ら4名が逮捕されます(のち2/22に再逮捕)。株価は記録上256円まで沈んだとされます。
  • 1/26(木):記録によれば113円。強制捜査からわずか10日で、株価は約84%が消えた計算になります。

696円から113円へ——10日で約84%(記録に基づく概算)。個別株の下落率で見れば、当サイトの指数でいうおはぎゃー度100%相当、いちばん青ざめた黒青ダルマ「大おはぎゃー」の領域です。ですが、この事件がほかの個別株暴落と決定的に違うのは、被害が一社にとどまらなかった点にあります。

ライブドア(4753)の2006年1月〜4月の株価転落チャート。1/16の696円から連日下落し、1/18は全銘柄取引停止で値つかず、1/26に113円、上場廃止前日の4/13に94円まで落ちた報道・記録に基づく概算推移
ライブドア(4753)株価の転落。1/16の696円から10日で約84%消失し、最後は94円で上場廃止へ。日次の株価は報道・記録に基づく概算推移で、1/18は全銘柄取引停止のため終値記録がなく破線でつないでいる。

そして1月18日(水)、この事件は日本の証券史に残る一線を越えます。ライブドア株をはじめとする売り注文があまりに殺到した結果、東証の売買システムが処理限界に達したのです。東証の1日の処理可能件数の上限は当時約450万件。この日の午後、約定件数がそれに迫り、約438万件に達したところで、東証は通常より20分早い午後2時40分に、全銘柄の取引を全面停止しました。日本の株式市場史上初めての「全銘柄取引停止」です。大幅な株式分割で、ライブドア株は売買単位でみれば東証全体の相当な割合を占めるほど売買が膨らんでいたことも、システムに過大な負荷をかけた一因でした。

ここで、個別株編の第1号サンバイオショック(File.2)を思い出してみてください。あの事件では、ストップ安で「売りたくても売れない」地獄が、一つの銘柄の中で起きました。ライブドアショックでは、それと同じ「売りたくても売れない」が、市場そのものを止めるレベルで、市場全体に起きたのです。日経平均は1/17・1/18の2日間で926円(約5.7%)下落し、1/18の終値は15,341円(−464円)。一社の不祥事が、日本中の投資家の取引を強制的に止めた——これがライブドアショックの、ほかにない恐ろしさです。

第3章 何が起きていたのか ── 「株を売った現金」を「売上」に化けさせる錬金術

では、なぜ強制捜査だったのか。核心にあったのは、決算の粉飾でした。証券取引法違反(偽計・風説の流布)に問われた中身を、初心者向けにひとことで言えば——「本当は稼いでいない利益を、稼いだように見せかけていた」ということです。

手口の柱は2つ。ひとつは、単純な架空売上(約15.8億円とされる)。もうひとつが、この事件を象徴する「自社株の売却益を、売上として計上する」という錬金術です。

ふつう、会社が自分の株を売って得た現金は「資本取引」であって、パンや広告を売って稼いだ「売上」とはまったく別物です。ところがライブドアは、自社が実質的に支配する投資事業組合という“ハコ”を経由させることで、自社株を売って得た利益(約37.7億円とされる)を、あたかも「投資事業で稼いだ利益=売上」であるかのように見せかけていました。架空売上と合わせて、粉飾額は約53億円にのぼるとされます。図にすると、こうなります。

ライブドアが投資事業組合を経由して自社株の売却益を売上に計上した粉飾の仕組み図解。本来は資本取引である自社株売却益を、迂回のハコを通して事業の売上に見せかけた
投資事業組合を使った「自社株売却益→売上計上」のからくり。本来「株を売った現金」は売上ではないが、迂回のハコを通して「投資で稼いだ利益」に見せかけ、売上を水増しした。

もう一つ、第1章で触れた株式100分割マジックも、この事件の背景として重要です。株を分割してから新株が交付されるまでの約50日間、市場に出回る株が品薄になる——その制度の隙を突いて株価をつり上げていたこと自体は違法ではありませんでしたが、実態のない期待で株価が膨らんでいたぶん、悪材料が出たときの落差も大きくなります。“中身”のない時価総額8,000億円は、悪い知らせひとつで、根こそぎ剥がれ落ちる——ライブドア株は、その典型でした。

第4章 それから ── 94円で上場廃止、そして6年越しの決着

逮捕のあとも、事態は淡々と、しかし確実に進みました。上場廃止が決まり、最後の取引日となった2006年4月13日、ライブドア株は前日比7円安の終値94円で最終取引を終えます。そして翌4月14日、上場廃止。ピーク時に8,000億円超といわれた時価総額は、上場廃止時点で約986億5,000万円にまで縮んでいたとされます。696円で買っていた株は94円に、時代の寵児は、市場から静かに姿を消しました。

しかし、株主にとっての本当の長い戦いは、ここからでした。粉飾で株価が下落し損害を被ったとして、株主による集団訴訟が起こされます。2009年に東京地裁が総額約76億円の賠償を命じ、その後も和解や賠償額の増額をめぐるやり取りを経て、最終的にすべての決着がついたのは2012年——事件から6年越しでした。堀江氏本人については、2011年に実刑(懲役2年6月)が確定し、2013年に仮釈放されています。

そして、失われたのはライブドアという一社だけではありませんでした。この事件は、当時盛り上がっていた新興市場(マザーズなど)全体への信頼を大きく傷つけます。「新興企業=夢がある」というムードは冷え込み、マザーズ指数は長い低迷期へと入っていきました。一社の不祥事が、新興市場全体に長い冬をもたらしたのです。

第5章 この事件から学べること

個別株事件簿でも別格の10日間が残した教訓を、3つに絞ってお土産に持ち帰ってください。

  1. カリスマと人気は、下落を止めてくれない。 ライブドアは、社長が国民的知名度を持ち、個人投資家に絶大な人気を集めていたとされる会社でした。それでも、悪材料が出たときに株価を支えてくれたのは「人気」ではありません。会社への好感度と、株価を支える力は別物です。応援したい気持ちと、資産を守る判断は、切り分けておく必要があります。
  2. ストップ安・売り気配の連続では、逃げられない。 サンバイオショック(File.2)と同じく、この事件でも「売りたくても値がつかない」状況が続きました。しかもライブドアショックでは、それが市場全体の取引停止にまで発展しています。含み損を抱えたまま、なすすべなく資産が削られていく——そのリスクを一つの銘柄に集中させないこと、つまり分散が、いちばんの備えです。逃げ道のある枚数で持つ、という原則は個別株では特に効きます。
  3. 「全員が知っている会社」でも、決算の中身は別物。 誰もが名前を知り、テレビで見ない日はない——それでも、その会社の決算の“中身”が本物かどうかは、また別の話です。ライブドアの利益の少なからぬ部分は、投資事業組合を使った“見せかけ”でした。知名度や勢いに惑わされず、その会社が本当に何で稼いでいるのかを一度は確かめる。地味ですが、これが突発おはぎゃーから身を守る、いちばん確かな護身術です。

時代の寵児ですら、悪材料ひとつで市場から消える。しかもその落下に、市場そのものが巻き込まれて止まる——ライブドアショックは、個別株の事件でありながら、相場全体の事件でもあるという、二つの顔を持った10日間でした。それでも相場は、この長い冬を越えて、いつか必ず起き上がります。買う前に「最悪の朝」を一度だけ想像しておく。それだけで、あなたの相場人生はずいぶん長持ちします。

★1 絶望ダルマ

株運長久ダルマより

「名前を知っておるだけでは、株は守れん。ワシもあの頃、みなが「あの会社なら」と信じておったのを見ておった。じゃがのう、決算の中身が本物かどうかは、勢いとは別の話じゃ。株を売った現金を売上に化けさせる——そんな“見せかけ”は、いつか必ずはがれる。だからこそ、一社に賭けきらず、逃げ道のある枚数でな。転んでも起き上がれる大きさなら、次の相場もまた見られる。願掛けの片目は、まだとっておこうかの。」

▼ 事件簿シリーズの他の記事もどうぞ。同じ「売りたくても売れない」地獄を一銘柄で描いたサンバイオショック(File.2)、市場全体がアルゴの連鎖で崩れた令和のブラックマンデー(File.1)、すべての「おはぎゃー」の原点ブラックマンデー1987(File.3)と読み比べると、個別株と相場全体、二つの暴落の“逃げ方の違い”が見えてきます。次回もお楽しみに。

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